開発・設計 豆知識
基板・ボードのデッドコピーはどんな危険性を孕んでいるのか?
- 回路・基板設計
基板の「デッドコピー」、つまり既存のプリント基板を完全に複製する行為は、目先のコスト削減と引き換えに、企業にとって致命的な法的リスクと技術的損失を招きます。安易なコピーは、単なる技術的な問題に留まらず、知的財産権侵害や不正競争防止法上の違法行為に発展し、法的な制裁、企業の信頼性低下に直結します。当記事では、そんな基板・ボードのデッドコピーがなぜ危険なのか知的財産と秘密情報の両面から解説します。
基板・ボードのデッドコピーが危険な理由
①知的財産権(IP)侵害
デッドコピーの最大の問題は、著作権法や特許法に違反する可能性がある点です。回路図や基板パターン設計は、開発者の創作物として著作権法で保護されています。特定の機能や制御技術が特許を登録している場合、その構造・機能を模倣すれば特許侵害となります。
知的財産権の侵害が認められれば、多額の損害賠償請求や製品の製造・販売の差し止めといった厳しい法的制裁を受けることになり、企業の社会的信用は完全に失墜します。これは、一時の利益を遥かに超える深刻な打撃となります。
②営業秘密の不正取得による法的リスク(不正競争防止法)
デッドコピーの過程で、対象製品の回路パターンや実装構造などが非公開の設計情報として含まれている場合、それらは「営業秘密」(不正競争防止法第2条6項)に該当する可能性があります。
営業秘密とは、以下の3要件を満たす情報を指します:
- 秘密管理性:アクセス制限や社内ルール等で管理されている
- 有用性:事業活動上有益な技術・営業情報である
- 非公知性:公に知られていない
これらの情報を正当な権限なく解析・利用・第三者に提供した場合、不正競争防止法違反(同法第2条1項7号〜9号)として刑事罰(10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金)や民事上の損害賠償の対象になります。
特に、委託先や取引関係者が入手した基板データを、許可なく再設計や複製に使用する行為は「不正取得」または「不正使用」に該当しうる点に注意が必要です。
③ノウハウの欠落による品質・信頼性低下
回路・基板設計には、配線長や部品配置、レイアウト設計、ノイズ対策など開発者の意図や高度なノウハウが凝縮されています。単なるデッドコピーは、表面的なパターンを複製するに過ぎず、こうした目に見えない設計意図を再現できないケースがあります。
結果として、コピー品はオリジナルの基板と同じ部品を使用したとしても、不安定な動作、ノイズによる誤作動、異常発熱による故障、製品寿命の極端な短縮といった品質上の深刻な問題を引き起こす可能性が非常に高くなります。安価に作ったつもりが、リコールや修理コストで膨大な出費を招きかねません。
④量産・保守の継続性の低下
製品のライフサイクルを通じて見ると、デッドコピーは量産体制の継続性を脅かします。例えば、デッドコピー基板が使用していた部品が生産中止(EOL)になった際、回路図や仕様書を起こしていないと、適切な代替部品を選定することが不可能となります。この結果、製品改良・保守対応ができず、長期的な生産や顧客サポートに支障をきたします。
短期的なコスト削減を優先した結果、結果的に多大なリスクコストを負うケースが後を絶ちません。
健全なリバースエンジニアリングで解決!
上記のあらゆるリスクを回避し、中断した製品を復活させたり、部品のEOL問題に対応したりするための健全な手法が、「解析と再設計」(即ち健全なリバースエンジニアリング)です。デッドコピーとの決定的な違いは、単なる複製ではない点にあります。
この手法では、まず現行基板を解析し、正当な目的と範囲内で回路図を再構築したうえで、現在入手可能な部品や現在の規格に適合するように設計を見直します。
この過程でも営業秘密の不正取得に該当しないよう、情報の出所や解析範囲を明確化し、依頼元の権利関係を確認することが不可欠であり、上記の方法でも知的財産権への侵害も考慮する必要はありますので、注意が必要です
>>基板・ボードのリバースエンジニアリングの手順とメリット・デメリット
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リバースエンジニアリングは、単なるコピーではなく、製品の技術を深く理解し、さらなるイノベーションにつなげるための重要な手段です。電子機器受託開発センター.comを運営するSST設計開発センターでは、法令遵守を前提に、適法なリバースエンジニアリングや製品再設計の支援、部品調達などのサポートなど一貫して対応します。営業秘密や知的財産の取り扱いに不安がある場合は、ご相談ください。
もし、製品の解析や回路の再現でお困りでしたら、ぜひ専門家にご相談ください。
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